青田の兄さん

5.高校生の頃

青田の兄さんはフルーツのバイヤーで好きな映画は「仁義なき戦い」の還暦男である。幼年期を高度経済成長たけなわの頃迎え、中途半端に金回りのいい家庭で育ったため、ヤクザのような乱暴な言葉遣いの中に坊ちゃん育ちが見え隠れする。それを象徴する出来事が以前あった。

青田の兄さんは町の商店街で2人のチンピラに肩がぶつかったとかぶつからなかったとかの因縁をつけられた。兄さんは引かなかった。「おめーら ガタガタぬかさねーでどっからでもかかってこい、このドアホ!」。その後、袋叩きにされ大けが、病院送りとなり、生死の境を彷徨うというそんな現代版武勇伝の持ち主なのである。

青田の兄さんは果物の試食をする際、手が汚れると周りに布性の物があればそれでなんでも拭く癖がある。それが人の手袋であろうと着ているトレーナーであろうと。常識がブッ飛んでいる兄さんは大物なのかそれともただの非常識なのか意見が分かれるところであったが、今は後者の意見に落ち着いている。

青田の兄さんはもらいタバコの名人で、一本目は自分の耳に、そして2本目に火をつける。銘柄にマイルドなんとかとか書いてあると、「は? まいるど? 健康に気を使って吸うぐらいなら最初っからタバコなんか吸うんじゃねーよ,バーカ」と、さんざん悪態をつく。なので、兄さんが近づいてくると皆タバコを隠す。

青田の兄さんは話の語尾に必ず「このやろー」が付く。「昨日は寒かったなーおいコノヤロー」等である、そんな兄さんは市場の近所のマンションの3階に奥さんと2人で住んでいる。真冬でもベランダで煙草を吸っている姿を何人もの人間に何度も目撃され爆笑されていることを、本人は知らないでいる。

「南川神社の偉い人って誰だっけ?」「あ そうそう、宮司(ぐうじ)さんだわ」という会話に青田の兄さんが割って入ってきた。「ぇえ!まじ?北原神社もよ、一番偉い奴の名前よ、宮司っちゅー名前なんだよ、親戚だよそいつら、親戚!」間違いを指摘して暴れられたら困るので皆下を向いて笑いを堪えた。

青田の兄さんは潔癖症である。一糸乱れぬ髪形、ファッション雑誌から抜け出たような服装、泥一つ付いていないブーツ、一流の物しか身につけないと自身で豪語する眼鏡と腕時計、メイン商店街育ちの端正な顔立ち、そんな兄さんだがシケモクはおいしそうに吸う。

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