お正月がきて、うちのおじいちゃんが「祈願合格」と書いてくれた。
我が家にも、あの受験の季節がやってきた。
娘「うち、落ちるかなぁ、落ちたらどうしよう。」
父 「アホか、落ちるかも知れないから、不安だから、だから、不安に突き動かされて勉強するから、だから受かるわけでしょ?」
娘 「、、、、、」
とかいって、あんまし勉強するわけでもない。大物かもしれない、ただの馬鹿かもしれない。自分としてはどっちでもいい。受かっても落ちても。
昔の話だが、自分の姪っ子が高校受験に失敗した。(志望校に入れなかった)。その後、某私立校に入り、3年後、4年制の看護学校を受験し失敗。第二希望の看護学校へ行った。
2度、志望校に通学する自分を夢み、2度挫折を経験している。
その後、助産婦さんの資格まで取るにいたり、就職、とってもやさしい男性にめぐり合い、結婚、新潟へ嫁ぐ、以後、子供を2人生み、保育園にあずけながら病院に勤務している。
何が言いたいかと言うと、親戚の中で、この子が一番心配しなくていい子になった。そんな気がするのである。さびしい思いをしてるんじゃないかとか、つらい思いをしてるんじゃないかとか、我慢して生活してるんじゃないかとか、そんな心配をしなくてもいいような見事な人間がこの世には結構いるように思うのだが、彼女はその一人になった。
娘もこの子の爪の垢を煎じて飲んでくれればなぁ、などと思う。
受かるもよし、落ちてそこから這い上がるもよし。親から見れば、受験など、一過性の出来事にしか過ぎないことを分かっているのだが、受験生達にすれば、生きるか死ぬかの瀬戸際って感じなのだろう。
どこに行ってもいい。好きなものを見つけて欲しい。好きなものが見つかればいいのかなぁと、そう思う。
そんな受験シーズンなのにもかかわらず、娘はいつも本を読んでいる。暇があると本を読んでいる。そんな子なのだが、何を読んでいるかというと、例えばコーチャンフォーのカテゴリーで言えば、「ファンタジー」系のものばかりだった。ハリーポッターとか、ダレンシャンとか、ウォーリアーズ、という舶来ものというか、ケトウものというか、そのためお父さんはわざと馬鹿にするような言葉をぶつけることが多かった、
「おめー また、魔法ものかぁ? は? 魔法の瞳のなんとかかよ? 呪文とか?はぁ? ラミパスルルル とかか? そんなもん,何がおもしろいんだよ!」
などと、思えば、かなりひどい事を言っていた。(一般的には人が読むものにケチをつけるのは絶対いけないことです。)
でも、ちょいと、純文学系とまでいかないのだろうが、人の心の中を表現しようとしている書き物を最近読んでいる。受験で不安という恐怖に晒され、心の中を描写したものに多少興味を持ついようになってくれたのかもしれない。ちとうれしい気がする。やっとこだ、やっとこそんな本を読んでくれるようになった。
お父さんとしては、高校受験最中の娘なのに、恐縮だが、受験よりも、なんだか、そういう本を読んでくれるようになったことの方がビックニュースなのである。
話は全然、変わるのだが、本日、イオンに娘と買い物に行った。
偶然、主婦らしき人が万引きする場面に遭遇した。
その女性は肩にかけている布製のエコバックみたいなものに瞬間的に商品を入れた。2人でそれを偶然目撃した。お父さんは以前お店屋さんをやっていたので、瞬間的に万引きであると分かったが、娘は何が起きたかを理解するまで時間がかかった。
お父さんが小声で、
「あれ 万引きだよ、見たしょ、お前も」
「え? 万引き? へ?、、、」と、記憶を巻きもどすように、たった今の直前の場面を頭の中で再生することに必死なようだった。
瞬間的な万引きは、一般の人には目撃したとしても、それが万引き行為だというところまで理解がつながらない。娘も隣でお父さんの指摘がなければ、「おや なんだろう」程度で終わってしまっていただろう。しかし、そういえば、そいいえばバックに物が瞬間的に入った記憶が改めて鮮明になったことと、自分が見たものは間違いでなかったことにようやく気づき、やっとこ、犯罪の目撃者になってしまった怖ろしさが襲ってきた。
「でも、商品をあのエコバックに入れたけど、レジでちゃんと会計するんじゃないかな、きっと」
40代前半の、娘の同級生のお母さんみたいな感じのなんの変哲もない、普通のやさしそうな女性が万引き行為をしたことに、いまだに信じられない気持ちなのか、見たことを否定しようと必死な感じだった。
「会計?はぁ? なわけないと思うよー」
その人を後をつけるなど、趣味が悪いことなので、そのまま自分たちの買い物を続け、買い物が終わりレジにならんだ。偶然だが、さっきの女性もレジに並んでいた。われわれの興味は俄然、その人がバックの中の商品を会計するかどうかだった。残念ながらというか、当然というか、バックの中の商品を出して会計をするということを女性はしなかった。
娘の頭の中でようやく、万引きであることが確定したのだろう。駐車場に止めてある車に二人で向かう最中、
「おと?お店の人に言わなくてもいいの?警察に連絡とかしたらは?」、娘の興奮は冷めていないようだった。
「残念だけど、我々にどうすることもできんわ。「見た!」ってことだけで信じてもらえるかどうかは難しいと思う。我々の証言だけではお店の人は動くことはできないだろうし、盗み方からして、常習犯だろうし、我々が指摘しても、とぼけられるに決まっているだろうし、あーゆー人はプロにまかせた方がいいと思う。私服の警備員さんとかが巡回してるし、一般の主婦の格好で見張ったりもしてるし、あの人はいつか必ず捕まるんだと思う。でも、お客さん達の前で、捕り物劇はしないだろうし、見つけたら小声で「すみません、ちょっと事務所まで来てもらえますか」みたいな感じで、そっと事務所に連れてくだろうし、だから、一般の人が気がつかなところで実は捕まってるんだ。コンビニで1年間に万引きされる売価の金額の合計は平均200万円以上になるらしい。それくらい万引きも万引の取り締まりも日常的に行われている。うちらが知らないだけなんだと思う。んでもって、あんな鮮やかに盗む人は、きっと前科もあるんだと思う。だからますますプロにまかせたほうがいい。普通のお母さんって感じなのに、盗み方が鮮やかなのは、病気である証拠だと思う。でも、その病気はまず治らない。」
全身の鳥肌がとまらないといった感じのようで、娘の顔には血の気がなくなっていた。
職業柄万引きネタはたくさんあったのだが、目撃してしまったこと、自分の友達のお母さんみたいな人だったこと、鮮やかな手口だったこと、犯罪をお店の人に報告できなさそうなこと、頭の中で歯車が分解しそうになっている娘の様子を見て、えげつない話はやめにした。