全道大会だった。
浦河町で開催された。
大会一日目、団体戦の一発目、大会へ行く娘には、携帯電話を渡してあった。
「ちゃんと試合結果を毎日報告しろよ!」というお父さんの命令口調の言葉を消灯時間が過ぎてから思い出したのだろう。夜10時頃、小声で娘から電話が鳴った。
「おと?」
「どした?」
「負けた!」
「そっかぁ どこに?」
「前田中学」
「そっかぁ 前田はしゃーないよな負けても」
「うん」
「晩飯おいしかったか?」
「、、、、まぁまぁだった?」
「、、、 やべ 、もう切るわ!」
電話を切ろうとする娘にくらいつくように、
「明日は共和中学とか?個人戦も 明日?」
「うん!」
「じゃーな」
「うん!」
二日目、二日目も消灯時間を過ぎてから電話がきた。小声だった。
「おと?」
「なした?」
「負けた!」
「そっかぁ 個人線は?」
「2回戦で負けた!」
「そっかぁ、わっかった。」
「やば! 誰か来る! 切るわ!」
サスペンスドラマみたいに、切羽つまったあわただしい報告だった.。でもまぁ、必要な情報だけは分かった。
要するに団体戦は予選落ちだった。後で聞いてみると、前田中とは2ー3で惜敗(因みに前田中はこの後3位となり全国行きを決めた)。共和中学とも2ー3の惜敗だったらしい。2敗してしまったので、予選を突破できなかった。調子の悪かった選手は、実力を出せなかったと、みんなに迷惑をかけてしまってと、のちの反省会で泣き出したらしい。娘の個人戦は1回戦は3ー0で突破、2回戦は1ー3で惨敗。全道に向けてかなりの練習を積んだが、だめだった。残念、惨敗の結果に終わる。
娘は第2の修学旅行のつもりだったらしいのだが、全国とまではいかないまでも、ひと暴れして帰ってきたかったのだろう、思った程活躍できなかったことが悔しくて悔しくてしょうがないようだった。他のチームメートも同じようだったらしい。
娘のいない3日間、一晩だけ、ひさしぶりに1人で飲みに出かけようかなと思い家を出た。行きつけのお店があるわけではなし、かといって、知らない居酒屋に1人で入る勇気というか、度胸もない。小心者の自分が行った先は、近所のそれも昼間たまに行くラーメン屋さんだった。あまりにも見慣れすぎている、それもいつもの席、4人掛けのテーブルに座ればいいのだが、テーブルに座ってしまうと後で入ってくるお客さんが座れないと困ることになるのではないか,お店に迷惑をかけるかもしれないとの小心者特有の気遣いから、テーブルを避けカウンターに座る。本当は空いている時間帯なため、どの席に座っても構わないのだろし、お店の人も同じくそう思っているのだと思うのだが、カウンターに迷わず座ってしまう。小心というより貧乏症の癖かもしれない。
「ビールください!」
「ハイ!」
「あ あの 瓶ビールありますか?」
「はい、うちは瓶しかありません。」
「あ んじゃ 瓶でお願いします。」
厨房の中、コンロの上、フライパンでもやしを引っくり返しながら、マスターがこっちの方を見て、ニコリ笑う。最近自分は年をとったせいか生ビールをおいしいと感じなくなった。そして生姜焼き定食を頼んだ。750円。ここは何を食べてもおいしい所なので、案の定「豚の生姜焼き」もおいしかった。瓶ビールと合わせて、1170円になる。本日は娘もいないし、鬼のいぬ間に洗濯のつもりで、自分にご褒美を与えるつもりだったが、行った先はいつものラーメン屋さん。贅沢のつもりはビール1本とラーメンが生姜焼きにランクアップしただけだった。こんなせこい贅沢しかできない自分が笑えるのだが、ビールを飲みながら1人で外食をしている自分に、なんだか訳の分からない罪悪感が襲ってきた。こんな罪悪感と戦いながら、する程の贅沢ではないことを思い直し、早々にラーメン屋さんを出た。なんだかすごい惨めな気持ちになりましたです、ハイ。生姜焼きはとてもおいしかったのですが、ささやかな贅沢も楽しめない体質に変わってしまって、貧乏性が身体に染み付いてしまった感じがして、なんだか惨めな気がしました。しかし、あの罪悪感はなんなんだろう。昼間は昼間で、お腹が減ると、ケチッてどっかのスーパーの298円ハンバーグ弁当。安い肉の臭みをごまかすためこれまた安っぽいナツメグを必要以上に効かせたハンバーグを口の中に放り込んだ時の、あのなんとも気色の悪い舌の感触。自分で「何やってるんだろうなぁ」と思いながら、でもそんなことしてる自分が、とっても幸せだったりして、そんなくだらないことに幸福を覚える習慣が出来上がってしまったのかなぁと。世の親って、家庭を持っている親って、こんな感覚の人がきっと多いんだろうなぁ、そう思うと、やっぱり惨めな気持ちになってしまった訳であります。(笑)
娘の中学校生活での部活はこれで全て終了した。学校も部活も,ほぼ無遅刻、無早退、無欠席だった。どんだけ丈夫になったんだろう。
浦河から帰ってきたら、受験モードに切り替えられるのだろうか。卓球熱は心のポッカリに入れ替わるのだろうか。卓球エネルギーが受験のエネルギーに変わってくれたらと思うのは、親の救いがたい希望なのである。
浦河から帰ってきたら、とりあえず、ご苦労さんでしたと、俗っぽい言葉でもかけようかなと、そんなことを思う。