修学旅行

3.小学生の頃
修学旅行

本日娘が修学旅行に出発した。「絶対見送りにきてね!」とのことだったのでがんばって時間を作った。
たまたま今朝は市場休だったので朝の配達だけ終わらせれば間にあうはずだったが、家について自転車に飛び乗り学校を目指した。学校に近づいてくると遠くの方にバスが2台止まってるのが見えた。大勢の父兄さんがとり囲んでいるのも見える。

「間に合ったー!」と思ったとたん。

先頭のバスがクラクションを鳴らした。出発の合図だ。バスが動き出した。

「え?はやっ!」

お母さん達がいっせいに手を振り歓声が上がる。時計を見る。7時26分。

「あれ7時30分発のはずだったのに、早まったかぁぁああ。」

あわてて立ちこぎし、ペダルを全速回転させる。先頭のバスは交差点で左折してしまった。(自分から見ると右折)娘は6年2組なので2台目に乗ってるかもしれない。2台目も走り出したようだ。

「遅かったかぁああ!」

自分は交差点に到着する。信号の無い狭い交差点だ。ブレーキをかける。目の前で右向こう角をコーナリングスペースをたっぷり取りながら2台目のバスはゆっくり左折し始める。

娘を探した。

運よくこっち側の窓側に座っててくれればまだ見送れる可能性があるので先頭の席から順に確認する。バスの中は見えにくい。バスが速すぎる。目に力が入る。必死になる。真中へんの席を見る。

「いた!」

遮光フィルムの貼られたこげ茶色の窓ガラスの向こうにこちらに気づきビックリした顔をしている娘が一瞬チラリと見えた。F1レースのスポーツカーのように娘は左から右へ一瞬で消えていった。そしてコーナーを回り終わる頃、遠心力が加わったバスは右側に傾いておしりだけになった。手を振る暇などなかった。同じく娘にしてもお父さんのビックリ顔が一瞬目に飛びこんできただけなのだろう。加速するためアクセルを踏み込んだのだろう、大量に噴出した排気ガスは周りのと温度差を生じさせ空間を歪ませた。まるでかげろうのようだった。娘を乗せたバスはかげろうの中を出発していくようだった。

娘はなぜあんなに見送りに来てほしいと懇願したのか、なんとなく心当りはあった。

見送りの場面で、「いってらっしゃーい!」という母親達の黄色い歓声の中で,自分を襲ってくる寂しい気持ちと戦うのがいやでいやでしょうがなかったのかもしれない。劇場的になりがちな今時のお母さん達の涙まじりで感傷的な気持ちの大安売りは彼女にとって決して快いものではない。そんな状況下、いつも憮然として飄々としている自分の父親の姿を大勢の中で見出したかったのだろう。

明日なんて言い訳しようかな。お父さんはおそらくいつものように、

「仕事だったんだからしょうがねーべ、バーカ」、そう言うだろう。

そういえば明日の約束を思い出した。

「絶対に迎えにきてね!到着の時、絶対にいてね!ね!」

父 「ま、気がむいた行くよ、約束はせんよ。わかった?」 

こんな父親に育てられて娘は吉なのだろうか凶なのだろうか、幸いなのだろうかその反対なのだろうか、いつも悩むところなのだが、でもただひとつ分かってることがある。

君は誰よりも早く強くなれるだろう。

こんな無神経な父親に育てられた君は人より強くなるだろう。

でもお父さんは君を強く育てているわけではないのだ。

そんな立派な教育方針を持った、そういう燐(りん)とした親ではない。

タネをあかす。

自分を強くして欲しいと思っている気持が君の心の根底には横たわっている。お父さんには どう考えてもそう思えてならないのだ。それが君の心奥で希求しているものの正体のような気がしてならない。

言い訳になるかもしれないが、実をいうとお父さんがそれに合わせているだけなのだ。 

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