ラジオ体操

 夏休みに入ってから娘は毎日、ラジオ体操に通っている。

目的は最終日にもらう戦利品だ。

お父さんの子供の頃はラジオ体操は小学校でしかやってなかった。ご褒美など貰えるようになったのははたして何時ごろからなのだろうか、たしか判子しかもらえなかった。

今時のラジオ体操は学校の校庭だけでなく、各町内でも行っている。戦利品の中身は各町内に任されているため、中身がいい町内と悪い町内の下調べをした上で通う子が結構いると聞く。

男の子の会話

「この町内はお菓子と図書券らしいぜ!」

「おう、そっちに、行こうぜ行こうぜ、文房具なんていらねーし、えんぴつ?、たくさんあるし、分度器? 意味わかんねー」、などと言う会話を飛ばしあい子供たちの流れが変わるのである。

娘は近所の公園に行っていた。(近いので)、毎日友達が向かいに来てくれる。娘は小学校の校庭でやってる体操と同じで今度の日曜日が最終日だと思っていた。ところがどっこい違った、ここの町内は何故だか今年は早く終わってしまった。

今日の日曜日が最終日だったのである。

その日に限って娘はある別な友達の家に泊まりに行っていた。

娘がいない今日その日、朝6時25分頃、インターホンが鳴った、玄関に行くと毎日体操に一緒に通ってる友達がいた。

父「あれ、今日いないよ、泊まりに行ったよわ、ありゃ、ごめんね」と、そう言うと、

その友達は目を見開き、びっくりした顔をした。「へ!」ってな感じで、、、ずいぶん驚かれたので、こっちが逆にびっくりしたくらいだ。今日体操に行けないのならなんで前の日に電話一本くれないのだろうというような、そんなとまどいにしては驚き方が普通じゃなかったのでお父さんはちょっと気になった。

でも、そう、その友達はきっと誰かから聞いていて本日が最終日であることを知っていたのである。その友達はこう思ったのだろう、

「今日行かないで、どうするんだよ、おい?!」

その夜、その友達から娘に電話があった。その時はじめて事情を知った娘は受話器を握ったまま固まっていた。そして電話を切った。

娘「きっと誰かが、お土産をもってきてくれるよね!だって行かなかったの最終日だけだも、ね!ね!」

父 「甘いわ だってお前がどこの誰だか、町内の人はしらないだろうし、数年前に転校してきたばっかだろ、だから余計知ってる人いねーだろうし、一緒に行ってたお前の友達もぜんぜん違う町内からきてたんだろ、無理だな、たぶん無理、ま、明日一日待って誰も来なかったら、あきらめだな!」

娘「ねぇ おと 町内の人に電話して聞いてくれないかなぁ?」

父 「だって誰に連絡したらいいか、さっぱりわかりませーん 」

父 「お土産なんだったって言ってたぁ?」

娘「お菓子と、図書券」、娘は泣き出しそうになった。

父 「へー すごいね、奮発だね、でも最終日だけ行くのヘマするなんてお前らしくて、いいじゃん、ん? ハハ!」

娘「…….」

お父さんとしては冗談を飛ばしたつもりだったが、残念ながら娘の壷にははまらず、なにより彼女の沈鬱な気分を氷解させることには成功しなかったみたいだ アハ

次の日、残念ながら待ち人は来なかった。そして夜になった。布団の中で娘がしくしく泣きはじめた。くやしいらしい。

父 「なんで泣いてるの?」

娘「だって、毎朝早起きして、なんにもなんなかった」

父 「お父さんの子供の頃は判子しかくれんかったぞ」

娘「意味わかんね」と、ツッコム娘の声が涙で少し震えている。

父 「お前の友達は何で知ってたの?あの町内の最終日を、ちゃんと自分で情報収集したからだろ、お前はしなかっただけだろ!その違いだよ、それだけ、さ、寝るぞ」

娘「…..」

父 「そのくやしさ、どうして勉強にいかせないのかが、不思議」

娘「….」

それ以上無神経なことを言って娘に殺意を抱かれても困るので余計なことを言うのはやめた。

父 「明日から学校の体操行ったら? 10日までやってるんだろ?」

娘 「あ!」、娘の声が明るくなった。

娘「その手があったぁぁあああ!」

娘は急に元気になった、急に、、、アホ

それから毎日学校の体操に自転車でかよっている。

父 「後半だけ行って、みんなにお土産あらしだと思われてないか?」

娘「だいじょうぶだわ、ぜんぜーん」

そしてそしてだった、

水曜日の昼間のことである。あるうら若き上品そうな女性が(どっかのお母さんだと思う)体操のご褒美を片手にたずねてきたらしい。

「こんにちは」

対応したのはおじいちゃんと娘だった。

その女性は町内の婦人部の人らしく、毎日体操しに来ていたのに肝心の最終日にお菓子を取りにこなかったアホ、もとい、娘を探し出してくれたらしかった。娘が想像を超え喜んだのはむろんのことで、周りは絶句するほどだったと思う。

お父さんとしてはお礼をいいたかったので2人に「その人、誰? どこの人?」

二人とも両手を天に広げ、首を横に振り、オーバーリアクションし、

「知らなーい!」 

(アメリカ人か お前ら!)

 そして本日、土曜日。

 明日の朝、娘は学校のラジオ体操の最終日にちゃっかり望もうとしている。戦利品を2つもゲットしようとしている。彼女は物欲の塊と化しているのである。父親としては頭がいたい。成り行きとはいえ、2重にお土産を頂いてバチが当たらんのか?また娘を探し出して持ってきてくれた人の行為も無になるような気がするし、、

んで 朝、目覚ましを6時にかけてるようだが娘が一人で起きたためしは一度もない。毎朝お父さんが起こしている。明日娘を起こすべきだなのだろうか実は今悩んでいる。娘が二つ目の戦利品をゲットするかしないかはお父さんの懐三寸次第なのである。

明朝 お父さんの良心がまだ死んでいなければ、起こさないでいようと思う。父親である前に人でありたいし、でもそういう日に限って「バチっ」と、いう音とともに目を開け、一人で目を覚ますタイプの子であるような気がしている。(恐ろしい話である)

こんな日は深酒をしよう。そうだ 深酒をして寝坊しよう。

(明朝の想像)

娘「ねぇ?おい!おと!コラッ! なんで起こしてくれなかったんだよ ったく?」

父 「いやぁーわりー、寝坊しちゃってさぁーあ、やー、わりー、アハ!」

正直に思う。

娘に殺意を抱かれる日はそう遠い将来でないのかもしれない。

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