玉突き衝突

 夜7時のニュース。近くのの高速道路で猛吹雪のため40台の玉突き事故が発生。3人が死亡、10人が重軽傷。

悪い予感がする。

高速道路を管理している事務所から電話があるかもしれない。最近、こういう緊急時はうちの店に電話がかかってくる。なにか頼まれるとすぐ

「わかりました!なんとかします。任せてください。大船に乗った気でいてください。」と、後先考えず答えてしまう私の悪いくせのせいだ。この大船がタイタニック号になってしまう場合があるので要注意なのだ。

19.15分電話が鳴る。

「来た!」と、思う。

やはりそうだった。

「道路管理事務所です。お弁当いますぐ、45こ持ってきてもらえますか?」

こんな注文どこに電話しても受けてくれないに決まってるからうちにかけてくるのだ。お宅にしか頼むとこないんです!なんとか受けて下さい!ウソでもいいから「ハイ!」と言って下さい!という担当者の切実な気持ちが電話口から伝わってくる。

「わかりました、なんとかします! 今すぐ持ってきます! オッケーで~す♪。」

すぐ持ってけるわけないのだが、雰囲気的に1時間ないし1時間と少しぐらいが許容範囲だろう。そう思う。

まず三升釜ででご飯を目一杯炊く。(洗米してうるかしてある米は常時約8kくらいある)。40分後にご飯ができる。その間におかずを作ればいい。すぐできるメニューはなんだ なんだ! 考える。明日調理する予定の味付けが終った鳥のモモ肉が10食分ぐらいあった。その他に冷凍の解凍が終った鳥もも肉がたくさんあった。

よし 「若鳥の唐揚げ弁当でいこう!」

これから新たに仕込みする肉は味を濃い目にして仕込んで揚げればいい。

でも私とおばあちゃんの2人だけで商品化するのは無理だ。電話をかけまくる。パートさんが2人つかまり、すぐ駆けつけてくれる。あと日替わり弁当のため仕込んでおいた大根と揚げの煮物がある。これも使える。一晩かけて味を染みらそうとしていた惣菜だが、充分使える。45人分くらいたまたまある。でもまだ足りない。よし あと玉ねぎ天を作ろう。玉ねぎを切り打ち粉をし溶かした天ぷら粉を流し込み冷凍のミックスベジタブルを混ぜる。フライヤーに玉ねぎを放っていく。放つ瞬間、平べったくして油に放つときれいな玉ねぎ天が出来る。ちょっとしたコツなのだ。低温で時間をかけて揚げると問題なくできるのだが、今は短時間で揚げなければならないため高温の油に放つ。しかし今日はうまくいかない。気持ちがあせっている証拠だ。深呼吸する。感をとりもどして玉ねぎ天をいっきに放っていく。

その時、娘が調理場へ来る。

「ウチも手伝う~!」と娘が言う。

娘は戦場と化したこの調理場の雰囲気にアドレナリンが分泌するみたいだ。

「さすが貧乏商人の子だ! いいぞ!えらいぞ!」

娘には梅干入れと醤油刺しとゴマふりと割り箸入れを担当してもらう。(でもまだ。ほとんどじゃまなだけだが..笑)

でもお父さんは思ってる。
こんな場面に君をどんどん巻き込んでいこうと思う。どんどん後先考えずに仕事を引き受けて、ひどい目に会おうと思ってる。人間はひどい目に合うたび、ちょっとづつ成長する動物なのだ。君はこんな環境でこれからも育つことになる。お父さんとヒデー目に会いながら大人になっていく。そしてちょっことずつ成長していけばいい。お父さんは確信している。こんな環境は決して君にとってマイナスじゃない。これからもお父さんとこんな風に逼迫した環境で一緒に暮らしていくのだ。それが君の運命なのだ。こういうお父さんを持ってしまった君の運命なのだ。

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